■魔人の最期■ マスティーの魔力がわずかに上回った。 ケルベズクの周囲を覆う結界が吹き飛び、次いで襲い来る魔の衝撃波をも掻き分ける。 「お願いっ、この状態はあと10秒も持たないっ!!」 掲げるマスティーの両手からは血が噴き出している。 既に限界を超えているのは明らかだった。 「いくよっ!!」 スウディが前に立ち、手を拡げる。 すると渦巻く瘴気の中にケルベズクへと向かって一直線の光の道が出来た。 ラインは雄叫びをあげ、躊躇する事無くその中に駆け込む。 振り落とされる魔人の一撃を回避、そして跳躍―― 落下に合わせてケルベズク額めがけ、自重全てを剣の先に乗せる。 だが、その動きは既に予見されていた。 ケルベズクは口を開け、ブレスを吐く。 まともに浴びればその身は滅びる。 回避する手立ては無い。ラインは覚悟を決めていた。 かつて魔人と戦い、命を落とした全ての者達…… そして今、魔人と戦う全ての者達が託した道…… たとえ命と引き換えでも、この刃を突き立てる。 その覚悟がついに神剣の力を呼び起こす。 眩い光を放ち、襲い来る息吹を引き裂き、そして―ー 「――――っ!!!!!」 声にならない絶叫、 遂にその切っ先が魔人に届いた。 額に穿ち込まれた剣は後頭部を付き抜け、背中から心の臓まで一気に貫いた。 魔人の再生能力を遥かに上回る速度で崩壊が始まる。 ケルベズクがラインを乗せたまま身体を持ち上げた。 首が極端に曲がった状態で安定が保てず、ぐらぐらと揺れている。 ラインは揺れる身体を踏み台に剣を残したまま飛び、地面へ着地した。 その反動で魔人は後ろへと倒れる。既に結界も瘴気も消えて失せていた。 スウディは気を失い倒れている。マスティーの腕はズタズタに裂け、 もはや魔法を使うことは不可能だろう。 メサイアの弓は尽き、オーフレイムの斧も折れている。 持てる力の全てを出して戦い、誰一人その場から動く力は残っていなかった。 「見事……人間風情が魔人であるこの私を倒したのだ……末代まで誇るがよい……  だが、いずれまた誰かがこの世界の制圧に乗り出すであろう……  その時、貴様らは再び絶望を味わい、そして今度こそ滅ぶのだ……」 ラインは一蹴する。 「お前は見たはずだ。人間は……例えどんな強大な敵であろうと、  そして何度敗れようとも諦めはしない。抗い、立ち向かい、  道を拓くその時まで決して屈する事は無い。黄泉の国でそう伝えよ」 「ふははっ……面白い!!  いいだろう。人間がどんな運命を辿るか、しかと見届けようぞ!!」 ケルベズクはその身が滅びるまで高らかに笑い続けた…… ・ ・ ・ 静寂―― 皆、疲労困憊しているものの、命は取り留めたようだ。 ラインは安堵の表情を浮かべると膝から崩れ、その場に突っ伏した。 (みんな……まずはここで休もう……) END